湾岸戦争における劣化ウラン使用とその被害
ヘレン・カルディコット
02/10/6 バルティモア・サンより(アボリション2000 MLより)


 ニューヨーク発― ブッシュ政権がイラク民衆への戦争を準備しているが、 憎悪の矢面に立つのは、サダム・フセインではなく、イラクの一般市民なので あるから、前のペルシャ湾岸戦争における医学的影響を想起することは重要で ある。

 1991年の紛争終結までに、米国がイラク、クウェート、およびサウジアラビ アの戦場に投下し、放置した、対戦車弾その他の爆薬に含まれる劣化ウラン (ウラン238)は300‐800トンである。

 「劣化(Depleted)」という語は、核分裂性成分であるウラン235を皮肉にも 「富化(濃縮)」と呼ばれる工程を通じて除去することを指す。除去して残っ たウラン238の密度は、鉛の1.7倍である。それが対戦車弾の材料として使用さ れ、発射されると、非常な威力を発揮し、戦車の装甲をナイフでバターを切る ように切り裂く。

 ウラン238の特性は、ほかにどのようなものがあるだろうか。

 第1に、自然発火性である。劣化ウランは、高速で戦車に衝突すると炎を上げ て炸裂し、直径5ミクロン以下のエアロゾルを生じ、その細かい粒子は大気を 通じて最終的にたやすく肺に吸入される。

 第2に、劣化ウランは陽子2個と中性子2個で構成され、他の放射線よりも 重いアルファ粒子を放出する潜在的発ガン性のある放射性物質である。いった ん体内にとりこまれると、吸入されて肺に入った場合でも、肉体にあたって傷 から入った場合でも、または、食物連鎖と汚染された水の濃縮を摂取し消化し た場合でも、肺、骨、血液、または腎臓のガンを誘発する可能性がある。

 第3に、その半減期は45億年であり、イラクやクウェートのこの弾丸が使用 された地域は、今後永久的に放射能の影響にさらされることになる。

 子どもは成人より、10倍から20倍、放射能に対して敏感である。たとえば、 イラクのバスラ市にいる私の同僚である小児科医の報告によると、小児白血病 と小児ガンの発生率は6倍から12倍に増加した。しかも、米国と国連によるイラ クへの制裁のため、抗生物質、抗がん剤、また患者を治療するための効果的な 放射線医療器具も入手することができない。

 劣化ウラン兵器が使用されたイラクの被曝した人々の先天的形成障害は、2倍 に増えた。その中には目が一つしかない赤ん坊や、脳のない赤ん坊も生まれて いる。

 しかしウラン238の使用によって健康への影響を受けたのは、イラク人だけで ないことはほぼ確かである。アメリカ人帰還兵士の中にも、最低一人の医療研 究者が報告しているが、10年後尿の中にウランが検出されたという報告がある。 また別の報告は、かれらの精液中にウランが存在していることを示している。

 「砂漠の嵐」作戦で使われた米軍戦車の約3分の1が、ウラン239で装甲されて いたということも、また問題である。なぜなら、その乗員は全身ガンマ線を浴 びていたからである。そのような被曝の長期にわたる影響についての研究は、 いまのところ見当たらない。

 これらの結果に米国の当局は驚いただろうか?否である。信じられないよう なことだが、「砂漠の嵐」作戦に先だって、米軍部は独自の研究を実施し、戦 場でエアロゾル状のウランに被曝した場合、肺がん、骨がん、腎臓障害、悪性 腫瘍でない肺疾患、精神障害、染色体異常、および出産障害につながる可能性 を警告していた。ブッシュ大統領、ディック・チェイニー副大統領、ポール・ ウォルフォウィッツ国防副長官、コンドレーザ・ライス国家安全顧問、および ドナルド・ラムズフェルド国防長官は、1991年の戦争の医学的影響と、かれら が計画している次の戦争がどのような健康への影響をもたらすか理解している のだろうか?もし理解していないのなら、かれらの無知にはことばを失う。し かし、さらに信じがたいことだが、かれらはそうした影響を理解しているが、 そんなことにはおかまいなしに戦争を始めようとしている可能性の方が強い。


ヘレン・カルディコット
核政策研究所設立者および所長。25年間にわたり、核時代の健康
被害に関する民間教育国際運動に専心。
最も新しい著書は、「新たな核の危険:ジョージ・W・ブッシュの
軍産複合体」(The New Press, 2002 )
Copyright @ 2002 The Baltimore Sun

仮訳 大庭里美 /Fax:082-828-2603