「彼らは剣を打ち直して鋤とし、槍を打ち直して鎌とする。
国は国に向かって 剣を上げず、もはや戦うことを学ばない。」
(イザヤ2:4、ミカ4:3)

人間の楯としてバグダットに入った木村公一牧師からの手紙


 この手紙は、平和を実現するキリスト者ネット(キリスト者平和ネット)が、 アメリカが国連の新決議を断念して戦争宣言をしたことに対して、抗議の緊急 行動を呼びかけた中で、「戦争回避を祈る」ための情報として提供されたもの です。バプテスト連盟の宣教研究所が受取人である木村公一牧師(バプテスト 連盟)の妻オッチョさんに公開の許可を得ています。


2003年3月16日
 元気で過ごしていますか。久留米の少年少女会の集会はどうでしたか。大地 は勉強の遅れを取り返していますか。あなたと伊都教会にファックスでこちら の様子を幾度か送ろうとしましたが、いずれも失敗しました。東京でも同じ状 態でしたが、電話は可能でした。イラクの電話局が戦時体制を敷いているから でしょう。
 ぼくは13日に予定どおりバグダッドに着いて、14日から早速、バグダッド北 変電所に住み着きました。この変電所は都心から北部バグダッドにかけて電力 を供給している変電所です。3月初旬には10人前後の「人間の楯」が住み込んで いたということですが、今は、田中光四郎さんという62歳の不二流体術の第二 代宗家で、アフガン戦士としてソビエト軍と6年間も戦った経験の持ち主と二人 で住んでいます。実にユーモアに富んだ個性のある方です。この人はわたしに 戦場での護身術を教えてくれます。
 わたしがここを選んだ経過を説明します。わたしが「友情・平和・連帯のた めの組織」(OFPS)というイラクの受け入れ団体の本部があるパレスティ ナ・ホテルに着くと、バグダッド周辺の発電所1か所、変電所2か所と貯水池 2か所の計5か所のどれかひとつに住み着く。その他の場所(例えば孤児院と か病院など)に希望する方は、イラクから換えってもらう。住み着いた後に、 その場所で好ましくないと思えば、移動することも、人間の楯を止めて帰国す ることも自由。
 そこでわたしは「OFPSの希望通りにします」と答えると、彼らはこのバ グダッド北変電所を奨めてくれました。上記の規約は様々な問題の発生を経て 最近できたもののようです。世界から遣ってきた人間の楯の人々の中には、こ うした条件にフラストレーションを抱えてイラク側と対立した人々がいました。 クロス・カルチュラル(自分の文化圏から他の文化圏に移ること)な働きとそ の方法についてなんの訓練も受けていない人間の楯の人々はどうやってこの問 題を克服するのか、という疑問をわたしは抱いていましたが、やはり、この問 題は大きいようで、イラク側と関係を破綻して帰国してしまう人が続出したよ うです。2月の初旬には300人いた人間の楯は、米国の国防省が「人間の楯は非 戦闘員として認められない」と言って、攻撃対象になる可能性を発表した2月26 日を境に減り始め、今は70人になりました。その理由は、三つに要約できるよ うです。
 人間の楯として遣ってきた人たちの多くは、病院や学校や子どもの集まるソ フトな施設に行きたがる傾向が強いために、イラク側の提示したハードな施設 を受け入れられなかった。彼らは自分たち流の方法や考えを押しつけようとし、 それに対し、イラク側も無理矢理、人間の楯を自分たちのニーズにはめ込もう としたことから、両者の間に感情的な対立が生じてしまった。
 「僕にも何かできるんじゃないか」というような観光気分で乗ってやってき た人々のその気分が当然の事として失望に変わった。これらの人たちの間で、 「イラクは最後には人間の楯を監禁して人質にするつもりなのだ」という風伝 が飛び交いはじめた。
 人間の楯の中には、ここが戦場であることを全く意識しないで、観光気分で 来た人がいるようです。さらに、上記の問題は教会の海外宣教におけるクロス ・カルチュラル・ミニストリー(異文化に向けて働き人を派遣する仕事)にお ける問題点と類似しています。
 私たちには常に2〜3人の情報局員が運転手を兼ねて「仕えて」くれています。  都心へ行くときは車に乗せて連れて行ってくれます。今日の日曜日は朝7時に 変電所を出発してシリア正統教会の礼拝に出席して、11時に帰ってきました。 これも運転手付きというVIPなみの扱いです。わたしはインドネシア時代の 経験を思い出して奇妙な気分になることがあります。情報局員によれば、英米 の情報局がピース・ボランティアや人間の楯として、工作員を送り込んでいる とのことです。だからイラク情報部は神経をとがらせているのです。私たちの 行動は同時に逐次報告されているはずです。
 日本を出発した3月12日に吉高叶牧師ご夫妻が成田空港まで送りに来てくだ さいました。私は彼にバグダッドにおいて「緊急・世界宗教者平和会議」なる ものの開催を提案して飛び立ちました。彼は日本キリスト教協議会(NCC) を通してこのヴィジョンを押し進めてくれています。NCCの大津健一総幹事 はすでに世界教会協議会に打診しているとのことです。可能かどうかは主のみ が知る事で、私たちは意志と英知のベストを尽くして平和の創造に向かうだけ です。OFPSの本部が置かれているバグダッドのパレスティナ・ホテルに日 本山妙法寺の寺沢純正さんというお坊さんが「宗教者平和使節団日本代表」と して滞在しています。この人も同じようなヴィジョンをもっていたようで、 「緊急・世界宗教者平和会議」に賛成してくれました。彼はイラク政府の宗教 者にコンタクトを取り始めています。また、先程、ヨセフ・トマスというイラ ク人のドミニコ会修道士を紹介されました。この人にヴィジョンを語って、バ チカンへの窓口になってもらおうと思っています。
 私は今まで幾度も宗教者会議なるものに参加しましたが、それらは「平穏無 事」な場所を選んで行われてきました。しかし、今回はあえて開戦まじかと言 われているバグダッドで緊急に開くことに意味があると思いました。ここで宗 教者が平和への意志をあきらめるなら、その宗教は無用の長物になるでしょう。  わたしについては心配しないでください。約束通り必ずあなたのもとに帰り ます。ホワイトハウスの血に飢え乾いた戦争マフィアたちの手にぼくのいのち をあけわたすような愚行はいたしません。2日前に東京の母に電話がつながり ました。もう聞いているでしょう。母は「公一は人間の楯としてイラクへ行っ たけど、神様の楯があることを忘れちゃいけないよ」と言ってくれました。本 当にそうだと思いました。4人の子ども達に、そして、友納牧師と伊都教会の 兄弟姉妹たちにくれぐれもよろしく。感謝。
 チグリス川のほとりから愛を込めて                公一



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